「いいですか、今から重要な事を言うので良く聴いて下さいね。
  あのですね、ゲームのやり方というのは、死んで覚えるものなんですよ」
  ――幻想再帰のアリュージョニスト
  

「車が売れないので半額で販売 → 売れない 通常価格に戻して1台買うともう1台プレゼント → 爆売れ」について

 最高経営責任者のサイモン・エンプソン(Simon Empson)氏は英ガーディアン(Guardian)紙の取材に、
「おかしなものです。1か月ほどは1台を半額で売ろうとしていたんですが、結果はまあまあぐらいで大成功ではなかった」と述べている。

「ところが『2台で1台の値段』のキャンペーンを始めた途端、2万2000件の問い合わせが殺到した」とその反響の大きさに驚く。


【2ch】ニュー速クオリティ:車が売れないので半額で販売 → 売れない 通常価格に戻して1台買うともう1台プレゼント → 爆売れ

実質的には同価値なのに購買意欲の大きな変化を招くこと自体、また、それが自動車のような高額な商品についても成立することに強く興味を持った。以下、調べたり考えたりしてみた。

書籍から


まずブクマコメでid:yamadadadadaさんに教えてもらったマッテオ・モッテルリーニ「経済は感情で動く」という行動経済学の本を読んだところ、最も関係がありそうな記述は具体的数字を提示された場合と割合的数字を提示された場合の認知の差異について論じている項目の以下の記述だった。

たとえばスーパーマーケットでマグロの缶詰の前にいるとする。一方の表示は「二個分の値段で三個」となっており、もう一方には同じ値引きの割合がパーセンテージで示されている。この場合は明らかに、前者の方が後者より感情へのインパクトがある。前者は「ただでもらえる」分がもうポケットの中にあるような気分にさせるのだ。


同書148頁

これは今回とは異なる状況設定だが「「ただでもらえる」分がもうポケットの中にあるような気分にさせる」という記述は関係がありそうな気がする。

ウェブから


次に、ウェブを検索してみたところ、このような販売方法は香港や台湾で「買一送一」と呼ばれていることがわかった。そして、「裏Kの食卓@台湾」で素晴らしく納得感のある説明を見つけた。

「買一送一」は、
「1個買うと、もう1個おまけでついてくる」という意味。
これはですね、
「半額」よりもずっとありがたみがあるのです。


なぜなら、


A−1000円のものが500円になったのを2個買う


B−1000円のものを買ったら、もう1個1000円のものがおまけでついてくる


買一送一 - 裏Kの食卓@台湾


これを今回の自動車の例にあてはめてみると、2万ポンドから1万ポンドに値下げされた自動車を1台買った場合(普通同じ自動車を2台も買ったりしない)は1万ポンド(155万円)の節約だが、2万ポンドで自動車が2台というパッケージであれば2万ポンド(300万円)の自動車がただで手にはいることになる。
この自動車の購入者はそのようなイメージから購入に至ったのではないか。


ウェブではずばりこのような販売手法についての研究論文も見つかったが、内容は登録の上購入が必要なため読んでいない。ちなみに、英語では"buy 1 get 1 (free)"というようだ。
Consumers' perceptions of promotional framing of price - Wiley InterScience

思いつきから


最後に、ただの思いつきだが、「1台を自分で運転し、もう1台を息子に与えるつもり」という購入者のコメントとジャパネットタカタの販売方法との類似性を指摘する声から「【12】ジャパネットたかたの本当のすごさ:NBonline(日経ビジネス オンライン)」という記事を連想した。
これはジャパネットタカタの高田社長のすごさは「幸せのイメージを伝える力」にあるとする記事なのだが、もしかしたら自動車2台のパッケージも同様に、1台を親しい人にあげて喜んでもらうという幸せなイメージを喚起したためより多くの消費者を惹きつけたのかもしれない。